僕等はここにいる
□浮遊閑話
5ページ/10ページ
4 皇帝より、笑顔を送る
まさか2度も会えるとは思っても見なかったんだが。
「・・・何やってんだお前?」
見ての通り、俺の部屋のベランダから景色を見ているそいつに俺は尋ねた。
すぐさま振り返ったそいつは俺を見止めると脱兎の如く逃げようとした。
のが瞬時にわかった俺は咄嗟にそいつの長い朱色の髪を引っ掴んだ。
首が痛そうだったがそこはあえて無視。
「おいおい、人様の顔見て逃げ出すとか酷くないか?」
『つうかなんでアンタ触れんだよ!?』
「んなもん知らんな。幽霊は見たのも触ったのも初めてだ」
憤慨するそいつ、アークの身体はうっすら透けて見える。
この様子だと見れる奴は何人かいたようだが触られたのは初めてのようだ。
『いい加減離・・・離してください!』
「いや、離したら逃げるだろ?それに敬語なんざいらん、普通に話せ」
ぐっと黙る彼に苦笑する。
『ルーク』ってのは等しく嘘が苦手らしい。
今度アッシュも弄ってみようか。
とりあえず髪は握ったままでアークの顔を身体ごとこっちに向けさせる。
何を怯えているのか、こっちを睨んでくる様はまるで警戒心丸出しの野良猫だ。
思わず笑ってしまったらなんとなく理由がわかったのか今度は真っ赤に。
『笑うな!!///;』
「いやぁ可愛いな〜お前♪」
『か、かわっ・・・!?////;』
すっかり茹蛸になったアークはもう何を言ったらいいのか分からない様子。
マジで可愛いなコイツ、男の癖に。
勢いに任せて彼の頭を撫でる。
かなり不本意そうだったが何か諦めの境地に達したらしくされるがままだった。
ふむ、なんというか。
「もう少し早くお前と会いたかったな」
『は?』
俺の言葉にワケがわからないという感じでアークは首を傾げる。
「いや、ルークとはまた違う弄りがいがあるからな」
『俺は今心底安心してるぜ、冗談じゃねぇ;』
ちょっと可愛くない言葉だがジェイドの嫌味に比べたらどうってこたない。
笑顔を絶やさない俺に呆れたようなため息を吐くアーク。
そこで少しばかり表情が陰ったのがわかった。
なんか言っちまったか、俺?;
『・・・今ならともかく、昔の俺には会わなくていい』
ああ、なるほど。
まだ『ルーク・フォン・ファブレ』だった頃の彼はとてもワガママだったらしい。
ジェイド曰く「扱いづらくて大変だった」そうだ。
貴族の坊ちゃんっていうのは大概そんなもんだと思うのは俺だけか?
ジェイドの報告はこっちとしては頭の痛いことが詰まりに詰まったモノだった。
(他に問題が山積みすぎたこととルークの手前怒鳴れず我慢した俺を褒めてほしい)
それを聞いていて思ったことがある。
「俺は別に昔のお前でも構わないぞ?」
アークはその言葉にキョトンとした。
“年相応な顔”だと思った。
「子供の世話ってのは結構楽しいもんだからな」
『なっ、誰が子供だ!!』
「お前のそういうとこだよ。ワガママで自己中心的且つ好奇心旺盛。実質お前7歳だろ?」
アークはまたまたぐっと黙る。
そうだ子供ってのはそんなもんだ。
むしろ7歳でこれなら天才じゃねぇか?
子供にとって当たり前のワガママを周りはそう見なかった。
赤ん坊のようになって戻ってきた『ルーク』を何がなんでも17才の年に合わせようとした結果がコレだ。
初対面の連中はともかく(いや、それもどうかとも思うが)、幼馴染だという2人くらいは旅の道中気づいてもよかったんじゃないだろうか。
.